「先輩、僕は会社を辞めたいと思っているわけではないんです。」
そういう話出しにした。
「先輩、明日、仕事の後にすこしでいいので飲みに行く時間をいただけませんか。」
そんな先輩の誘い方をしたから、恐らくは辞めるんじゃないか、
そう思わせてしまっていると思ったから、
脈絡はなかったかもしれなかったけれど、そんな文章からはじめた。
「ただ、みんなが当たり前のようにやっていることが、こなしていることが、僕にはどうしてもできないんです。
僕は教えてもらったことをどうしても忘れてしまって、なんとかメモをしないととメモを取るのですが追いつかず、電話を受けたら相手の話していることが話を聞くそばから忘れてしまい、飲み会の席で、好きな食べ物は?と聞かれても頭になんの回答も浮かばずに答えることができなくて。。。
以前の会社は土日休みもなくブラックな環境で、体調を崩していたからうまく頭が働かないのかな、と思っていたのですが、
この会社に勤め、毎日しっかりと睡眠を取り、土日にも休ませてもらい、それでも頭がうまく機能しないことで、ようやく気づくことができたんです。
自分は人とは違うんだ、ということに。
僕はきっと、人と脳か何かが生まれつき人と違うんじゃないかと、そう思います。
だから、仕事を辞めたいです、とそういうわけではなく、むしろ努めていくので働かせていただきたいです、ということが伝えたくて。」
そういう伝え方にした。
まだ、発達障害の診断は受けていないけれど、
何かが人と違う、その確信だけはあったし、先輩に迷惑をかけ続けていることも分かっていたから、
自分の今の気持ちと、続けたいんだという意志、それだけはなんとか伝えておこう、その気持ちで先輩には打ち明けた。
すると、アニキ先輩は即答だった。
「なるほどな。まずさ、僕から見たらかめた君は変ではないからね。
かめた君が感じているつらさや困難はあるのだと思うけれど、それは周りから見たら問題はないものだよ。
真面目過ぎるし、不器用なところもあるし、
人よりは時間がかかるかもしれない、だけどおれが教えていくよ。」
先輩はそう言ってくれた。
僕の相談はとても漠然としていて、答えを求めるものでも方法を模索するものでもなく、
自分の今の気持ちとつらさを伝えるだけの、え?だから?と言われてもしょうがないような内容だったと思う。
そんな内容にも関わらず、先輩は僕の気持ちを受け入れ、不安を和らげるようなことを言ってくれて、
そこまで言わせてしまった後に、僕が何か他に求めるものなども特になく、
「そう言われてみると、確かにそうですね。」
そんな返事だけが口からは出てきた。
どうしよう、こんなに相談のはじめを引き延ばしておいて、
ようやく出てきた相談は短いラリーで終わってしまった。
この後の時間はどうしよう、そんな焦りが緘黙症の僕にはすぐに訪れた。
訪れたけれど、何か食べたいものはある?と聞かれて僕は、
「目光のから揚げが食べたいです。」と答えていた。
好きなものがないはずの僕がしっかりと好みがある人が頼みそうな品を
注文して、すこし自分でおかしく思いながら、日本酒を飲みながら食べた目光のから揚げはとてもおいしかった。
その翌日から、アニキ先輩は僕のことを他の人に話をしている時に、
「彼変わってるとこあるんだよー」と僕を会話にいれてくれたりする。
作業の進捗もちょくちょく気にかけてくれて、焦って頭が動かなくなってると横から覗いて、
「今、作業どんな感じー?」と助け舟を出してくれる。
僕はまだ、雑談はできない、おちゃらけることもできない。
だけど、できる作業だけは雑念に囚われずしっかりやっていこう。
そう思った。
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